糖尿病診療においては近年様々な治療薬が登場し、患者さん毎に見合った適切な治療法を提供していくことがより大切になってきました。そのうえで、患者さんの糖尿病の特徴を理解することが重要といえます。
今回は、我々日本人と欧米人の糖尿病について、それぞれの特徴に焦点を当ててお話したいと思います。糖尿病は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が低下する状態(インスリン分泌不全)と肥満・食べ過ぎ・運動不足などによりインスリンの感受性が低下し、筋肉など組織における糖の取り込みが障害される状態(インスリン抵抗性)の両者の要素が絡んで発症するとされています。1
日本人は欧米人と比較して糖尿病でない状態から、インスリンの分泌能力が欧米人と比較して低いといわれています。糖尿病を発症する過程において、欧米人は急激なインスリン抵抗性の増大を示す一方で、日本人はインスリン抵抗性の増大に比べてインスリンの分泌能力が更に低くなる傾向を示します。2 糖尿病患者さんにおける、体重(kg)/身長(m)2で定義されるBMI(体格指数)の分布を見てみますと、アメリカやイギリスなどの欧米人は、インスリン抵抗性の強いBMI 30 kg/m2以上の人が半数以上になるのに対してインスリン分泌の弱い人が多くを占めるBMI 25 kg/m2未満の人は一割程度にとどまります。一方で、日本人の分布は真逆でBMI 25 kg/m2未満が糖尿病の半数以上を占めるのに対して、欧米で中心となるBMI 30 kg/m2以上の人は一割もいないような状況です。3
以上より、欧米人の糖尿病はインスリン抵抗性が主体であって、肥満者が多いことが挙げられます。肥満で生じるインスリン抵抗性を十分なインスリン分泌能力で補えている間は、糖尿病を発症しません。対して、日本人はインスリン分泌不全が糖尿病の主体であり、軽度の肥満であっても、インスリン抵抗性を補えるだけの十分なインスリンが分泌されにくく糖尿病を発症しやすいと考えられます。日本人は糖尿病になりやすいという言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかとは思いますが、それは日本人のインスリン分泌能力が低いことと大きく関係しています。
日本人の特徴を踏まえて、糖尿病診療においては残された「インスリン分泌能力」やインスリンを分泌する細胞である「β細胞」をいかに守れるかが重要です。4 単に血糖値を落とすことに注力するのではなく、「患者さんの身体を守る」という視点を大切にしてこれからも日常診療を続けられたらと思っています。
【引用文献】